コラム

Column

投稿日:2026年1月22日/更新日:2026年1月22日


海洋脂質成分に注目した「食による老化制御」の可能性 ー海の恵みが持つアンチエイジング力ー
肌の老化

はじめに

先日、京都の生産開発科学研究所で開催された「健康機能性成分研究会」に参加しました。今回のテーマは、海の生き物がもつ生理活性物質に関するものでした。なかでも注目されたのが、海洋由来のカロテノイド成分で、細胞の老化や皮膚の老化をゆるやかにする新しい食品素材として、いま世界中で研究が進められています。

 

「カロテノイド類」と呼ばれる天然色素成分であるアスタキサンチンやフコキサンチンは、強力な抗酸化作用と抗炎症作用を持ちます。これらは紫外線(UV)や活性酸素によって起こる光老化(しみ・しわ・たるみの進行)を防ぐことがわかっています。例えばアスタキサンチンは、Nrf2経路という抗酸化スイッチを活性化し、MMP-1(コラーゲン分解酵素)を抑えることで肌の弾力を保ち、保湿力を高めることがヒト臨床試験でも確認されています[Zhou et al., Nutrients, 2018; Shanaida et al., Antioxidants, 2025]。
一方のフコキサンチンは、褐藻(こんぶやわかめの仲間)に含まれるカロテノイドで、紫外線による酸化ダメージを軽減し、皮膚細胞(角化細胞)を保護する作用が報告されています[Tavares et al., Mar Drugs, 2020]。

 

カロテノイドによる皮膚の老化抑制作用

海洋性カロテノイド(アスタキサンチン=サケ・微細藻類由来、フコキサンチン=褐藻由来)は、紫外線による酸化ストレスや炎症シグナルを抑えることで、肌の老化を遅らせると考えられています。アスタキサンチンの研究では、経口摂取(飲むタイプ)で肌のしわ改善、保湿力アップ、紫外線への耐性向上などが報告されています[Zhou X. et al., Nutrients, 2021]。フコキサンチンは、試験管実験(in vitro)や動物試験(in vivo)で紫外線保護作用・抗酸化作用・角質形成因子(filaggrinなど)の保護効果が確認されており、将来的に化粧品や外用剤としての応用が期待されています[Tavares RSN. et al., Antioxidants (Basel), 2020]。

 

また、カロテノイドは体内で活性酸素を除去する「抗酸化剤」として働きます。一重項酸素やROS(活性酸素種)を消去し、脂質の酸化・DNA損傷・コラーゲン分解を防ぐことが報告されています[Shanaida M. et al., Pharmaceuticals (Basel), 2025]。さらに、炎症性サイトカイン(IL-6、IL-1βなど)やMMP(マトリックスメタロプロテアーゼ)を減らす抗炎症作用も確認されています[Zhou X. et al., Nutrients, 2021]。
また、カロテノイドは細胞内の遺伝子スイッチ(Nrf2、MAPK、AP-1、NF-κBなど)を調整することでも光老化抑制に関与していると考えられています[Ma Y., Antioxidants, 2025]。今後は、吸収率(バイオアベイラビリティ)の向上、成分の標準化、および長期的な安全性の確認が課題とされています[Yang O. et al., Front Med (Lausanne), 2025]。

 

スフィンゴ脂質による皮膚バリア機能の改善

スフィンゴ脂質(スフィンゴリピド)は、皮膚の表面を覆う「角質層バリア」をつくる大切な成分です。中でも「セラミド」やその前駆体であるグルコシルセラミド、スフィンゴミエリンなどは、肌の潤いを保つ要です。これらの脂質を食品として摂取すると、皮膚の水分保持能力が上がり、経皮水分蒸散(TEWL)が減少することが報告されています[Duan J. et al., Exp Dermatol, 2012]。摂取されたスフィンゴ脂質は体内で代謝され、皮膚のセラミド合成酵素を活性化してバリア機能を高めると考えられています。

 

また、バリア回復の促進によって炎症の持続を抑え、皮膚の恒常性(バランス)を維持する効果も報告されています[Venkataramana SH. et al., BMC Complement Med Ther., 2020]。さらに、海藻などの海洋生物にも多様なスフィンゴ脂質が存在し、構造によって活性が異なることから、成分の特定と品質管理が今後の研究課題です[Wang X. et al., Food Frontiers, 2024]。

 

食品成分による「セノリティクス(senolytics)」の可能性

老化が進むと体内に老化細胞(senescent cells)が蓄積し、慢性的な炎症や組織機能の低下を引き起こします。これらの老化細胞を選択的に取り除くことを目的としたのが「セノリティクス」という考え方です。現在、医薬品だけでなく、食品由来の天然化合物にもセノリティクス活性をもつものが報告されています。代表的なのがフィセチン(Fisetin)とケルセチン(Quercetin)です。

 

1) フィセチン(Fisetin):イチゴやリンゴ、キウイなどに含まれるフラボノイド。マウスで老化細胞除去作用を示し、炎症や老化の進行を改善。ヒト臨床試験も始まっており、有望な結果が出つつあります(研究進行中)。
2) ケルセチン(Quercetin):タマネギやお茶、リンゴに多く含まれ、抗酸化・抗炎症作用をもちます。抗がん薬のダサチニブ(Dasatinib)との併用(D+Q療法)で、老化細胞除去効果が報告されています[Islam MT., et al., Aging Cell, 2023]。

 

予備的なヒト試験では、糖尿病性腎症の患者で老化マーカーの低下が確認され[Hickson et al., EBioMedicine, 2019]、マウスでは組織機能の改善も示されています。動物研究ではフィセチン摂取により寿命延長や筋力・体力の維持が見られた報告もあります[Tavenier J. et al., Wiley Online Library, 2024]。
セノリティクスは、老化細胞がもつ生存シグナル(SCAPs)を抑制し、自然に細胞死(アポトーシス)へ導くメカニズムで働きます。天然成分は、Bcl-2族やPI3K/AKTなど複数の経路に作用することがわかっています[Lelarge V. et al., Nature, 2024]。ただし、臨床応用には課題も多く、①老化細胞のみを選択的に除去できるか、②継続投与が必要か、断続的でよいか、さらに、安全性(特にダサチニブ併用の副作用)などが今後の検討課題です[Raffaele M. et al., The Lancet, 2022]。

 

今後の展望

1. 海洋性カロテノイド(アスタキサンチン、フコキサンチン)は、光老化を防ぐ有望な天然成分です。生体吸収性や長期的摂取などの安全性の確立が今後の鍵となります。
2. スフィンゴ脂質は経口摂取で肌のバリア機能を高めることが示唆されており、海洋由来の新素材として期待できます。
3. 食品由来セノリティクス(フィセチン、ケルセチンなど)は、安全性の高い「食による老化制御」の切り札になる可能性があります。
これらの研究はまだ進行中ですが、海や植物由来の天然成分が「老化をコントロールする時代」を切り開こうとしています。