コラム

Column

投稿日:2025年10月23日/更新日:2025年10月23日


酪酸菌を増やすと健康に?

はじめに

先日の龍泉堂社のセミナー(2025.09.10)ではButiShieldという酪酸カルシウムの原料説明がありました。
酪酸(butyrate)とは腸内で一部の腸内細菌が食物繊維を発酵して作る短鎖脂肪酸(SCFA)の一つで、大腸上皮のエネルギー源になり、腸のバリア機能や炎症制御、代謝・免疫系に影響すると考えられています。
最近の臨床・観察研究でも、酪酸産生菌の存在や酪酸の補給が感染リスク・血圧・肝代謝・腸炎などに関連するという報告が増えています。
ただし、ヒトでの介入効果は条件によってばらつきがあり、まだ十分に確立されていない点もあります(Kalkan AE., et al., Nutrients. 17(8):1305, 2025)。
ここでは最近の報告を含め酪酸菌と健康に関して下記に報告します。

 

酪酸って?(主なメカニズムを簡単に)

酪酸は以下のような経路で作用するとされています。主なメカニズムは大きく二つです。
1.受容体(GPR41/GPR43 など)を介したシグナル伝達による免疫や代謝を調節する経路。
2.ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)を阻害して遺伝子発現を変えることで抗炎症効果や細胞の分化・代謝へ影響すること。
これらは動物実験や細胞実験、臨床データの報告から支持されています(Deuren TV., et al., Obes Rev. 23(10):e13498, 2022)。

 

酪酸に関する最近のエビデンス

①腸炎・IBD(炎症性腸疾患)

動物モデルや一部の小規模ヒト試験では、酪酸あるいは酪酸を増やすシンバイオティクス(プロバイオティクスとプレバイオティクスの2つを組み合わせたもの)が腸の炎症を軽減する報告があります。ただしヒトでの有効性は試験デザインによって差があり、標準治療に対する確固たる代替とはまだ言えません(Sung H., et al., mLife. 4(4):397–408, 2025)。

②代謝(肥満・インスリン抵抗性・肝代謝)

動物研究では酪酸が体重・インスリン感受性に良い影響を与えることが示され、最近のレビューや観察・介入研究でも肝代謝(MASLD/NAFLD)や全身炎症の改善との関連が報告されています。ただしヒトでの効果は食事や個人の腸内環境に依存し、一貫性は限定的です (Deuren TV., et al., Obes Rev. 23(10):e13498., 2022)。

③血圧

最近の臨床試験では、腸への酪酸の局所供給(例えば直腸注入など)で短期的に収縮期血圧が低下したという報告が出ています。今後の大規模試験で持続効果や安全性の検証が必要です (Mizuno H., et al., JAHA 14, 17, 2025)。

④感染リスク

大規模コホート解析の解析では、腸内で酪酸産生菌が増えると感染症による入院リスクが低くなる関連が示唆されました(観察研究)。因果関係を確定するには介入試験が必要です(ECCMID 2024、4月27〜30日、スペイン・バルセロナ)。

 

日常で酪酸菌を増やすにはどうしたらいいの?

①食物繊維を意識的に摂取

難消化性デンプン(レジスタントスターチ)、不溶性・水溶性食物繊維、オリゴ糖は酪酸産生の“エサ”になります。根菜、全粒穀物、豆類、バナナ(やや熟してない方が)、冷ましたご飯などが良いでしょう(Akagawa S., et al., Ann Nutr Metab 74, 132–139 ., 2019, Sato S., et al., Microorganisms 10, 1813, 2022 and Xu J., et al., Food Science and Human Wellness 12, 2344–2354, 2023).

②多様な植物由来食品を摂取

多様性が腸内細菌群の多様化を促し、酪酸産生菌の存在も後押しする可能性があります(細見ら, 生化学, 95(4), 450‒456, 2023)。

③プロバイオティクス(サプリメント)を摂取

市販の酪酸菌含有製剤や直鎖脂肪酸(ナトリウム酪酸など)のサプリがありますが、経口で摂っても胃・小腸で吸収されやすく大腸へ届きにくい点や、製剤ごとの証拠の差がある点に注意が必要です(Falony, G. et al., Appl Environ Microbiol 72, 7835–7841, 2006) 。

 

摂取の注意点やリスクはあるの?

• エビデンスの限界:多くは動物・小規模ヒト研究・観察研究に基づくため、ヒト一般への適用は慎重に。ランダム化比較試験(RCT)で確定的な効果が示されていない分野も多いです(Ventura I., et al., Int J Mol Sci, 25(20), 10879, 2024)。
• プロバイオティクスによる副作用:免疫抑制のある人や重症疾患のある人では、稀に菌血症が報告されています(例:一部の製剤で問題となった報告)。免疫不全や重症疾患がある場合は医師と相談をしたほうが良いでしょう(Sada RM., et al., Emerg Infect Dis., 30(4):665-671, 2024)。

 

まとめ

酪酸産生菌と酪酸は腸の健康や免疫・代謝に対して有望な作用を持ち、最近の研究でも感染リスクの低下や血圧低下など興味深い結果が出てきています。ただし、ヒトへの直接的な介入効果は個人差や介入方法によって変わり、まだ研究が進行中です。
まずは「多様な植物性食材と食物繊維を摂取すること」を基本に、特定のサプリやプロバイオティクスを使う場合はエビデンスや安全性を確認した上で医師・薬剤師に相談するのが現実的です(Kalkan AE., et al., Nutrients 9;17(8):1305, 2025)。