コラム

Column

投稿日:2025年10月29日/更新日:2025年10月23日


骨代謝におけるヒアルロン酸の二面性:分子量が左右する骨リモデリング制御機構
ヒアルロン酸

はじめに

第8回ヒアルロン酸機能性研究会の学術講演に参加してきました(25.10.20@キユーピー株式会社渋谷本社ホール)。
ヒアルロン酸は皮膚や関節への機能性成分として認知されていますが、ここでは骨との関係に着目して、書いてみたいと思います。
ヒアルロン酸(hyaluronic acid: HA)は、細胞外マトリックス(extracellular matrix: ECM)の主要成分であり、組織の構造的支持や細胞間シグナル伝達に重要な役割を担っています。
冒頭でも述べた通り、従来は皮膚や関節での保湿・潤滑機能が注目されてきましたが、近年、HAが骨代謝制御にも深く関与していることが明らかとなってきており、論文報告があります。
特に、分子量の違いによる生理活性の変化は、骨リモデリングの恒常性維持における重要な要素として注目されています。

 

高分子ヒアルロン酸による骨吸収抑制作用

骨代謝は、破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成のバランスにより恒常性が保たれます。
このバランスが崩れると、骨粗鬆症や関節リウマチなどの骨量減少疾患を引き起こし、高分子量HA(1000 kDa以上)は、破骨細胞の分化を抑制することが報告されています。
高分子HAは、破骨前駆細胞表面のCD44受容体を介してRANKL(Receptor Activator of NF-κB Ligand)シグナルを阻害し、NF-κB経路およびNFATc1の活性化を抑制します。
その結果、破骨細胞の成熟化を妨げ、骨吸収が抑制される。また、高分子HAは骨芽細胞の増殖や分化を促進し、骨形成環境を安定化させることも示されています。

 

低分子ヒアルロン酸による炎症性骨吸収の促進

炎症環境下では、酸化ストレスや組織損傷により高分子HAが分解され、低分子量HA(数十〜数百kDa)が生成される。低分子HAは免疫系において「危険シグナル(DAMPs)」として作用し、免疫細胞を活性化させます。
低分子HAはTLR2/TLR4受容体を介してマクロファージを刺激し、TNF-αやIL-1βなどの炎症性サイトカインの産生を促進します。
これらのサイトカインは破骨細胞分化を誘導するRANKL発現を高め、骨吸収を促進します。この機構は、関節リウマチや歯周病など、炎症性骨破壊を伴う疾患で重要な病態因子となります。

 

骨リモデリングにおける受容体シグナル機構

HAの生理作用は主にその受容体を介して発現しますが、代表的な受容体と機能は以下の通りです。

受容体主な発現細胞主な機能
CD44破骨前駆細胞、骨芽細胞細胞接着・分化調節・抗炎症作用
RHAMM骨芽細胞、線維芽細胞細胞移動・骨形成促進
TLR2/4マクロファージ、樹状細胞炎症応答・破骨細胞分化促進
LYVE-1内皮細胞リンパ輸送・免疫調節

 
このように、HAの分子量の違いは受容体選択性を決定し、それに応じたシグナル伝達経路を活性化することで、骨代謝の方向性を決定します。

 

応用と展望

高分子ヒアルロン酸(HA)の骨吸収抑制作用を応用したバイオマテリアルや再生医療製品の開発が進展しています。
特に、骨移植材やインプラントのコーティング材に高分子HAを組み込むことで、骨吸収の抑制と骨形成の促進を同時に実現する戦略が有望視されています。
さらに、炎症性疾患の分野では、ヒアルロニダーゼ(HA分解酵素)の活性制御や低分子HAの除去が、新たな治療ターゲットとして注目されています。
加えて、血中や組織中におけるHAの分子量分布を解析することで、骨リモデリングの状態を非侵襲的に評価できるバイオマーカーの開発にも期待が寄せられています。

 

まとめ

ヒアルロン酸はその分子量によって破骨細胞・骨芽細胞・免疫細胞に異なる影響を与え、骨代謝の恒常性を微細に制御しています。
高分子HAは抗炎症的かつ骨形成促進的に、低分子HAは炎症促進的かつ骨吸収促進的に作用します。
この二面的な生理活性は、HAが骨組織における重要な「サイズ依存性シグナル分子」であることを示唆してます。
今後、HAの分子量制御技術や受容体シグナル解析の進展により、骨代謝疾患に対する新しい治療・診断戦略が確立されることが期待されます。
 

参考文献
1. Stern, R., & Jedrzejas, M. J. (2006). Hyaluronidases: their genomics, structures, and mechanisms of action. Chemical Reviews, 106(3), 818–839.
2. Jiang, D., Liang, J., & Noble, P. W. (2007). Hyaluronan in tissue injury and repair. Annual Review of Cell and Developmental Biology, 23, 435–461.
3. Gerdin, B., & Hällgren, R. (1997). Dynamic role of hyaluronan (HA) in connective tissue activation and inflammation. Journal of Internal Medicine, 242(1), 49–55.
4. Cowman, M. K., Lee, H. G., Schwertfeger, K. L., McCarthy, J. B., & Turley, E. A. (2015). The content and size of hyaluronan in biological fluids and tissues. Frontiers in Immunology, 6, 261.
5. Takahashi, N. et al. (2020). High-molecular-weight hyaluronan suppresses osteoclast differentiation via CD44 signaling. Bone Reports, 12, 100257.
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