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投稿日:2025年8月1日/更新日:2025年9月17日


硝酸塩含有ビート(ビートルート)が運動パフォーマンスを向上させる
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■はじめに
ビート(Beta vulgaris rubra)は,ビートルートやレッドビートと呼ばれる根菜の一種であり,ロシアやウクライナの料理である「ボルシチ」に欠かせない野菜です。近年,ビート(以下、ビートルート)の健康増進および疾病予防機能性食品としての期待が高まっています。
 

ビートルートは無機硝酸塩、アスコルビン酸、カリウム、鉄、カロテノイド、フラボノイドに加え、特有の赤紫色をした色素成分であるベタレインを含有しています。特にビートルートに含まれる硝酸塩(NO3-)の心血管リスク低減効果やアスリートの運動パフォーマンスの向上効果、ベタレインによる抗酸化作用や抗炎症作用に注目が集まっています。

 

硝酸塩による運動中の筋力増加

一般の方に馴染みのない栄養素の一つである硝酸塩(NO3-)がアスリートのパフォーマンスを改善させることが分かってきています。
さらに、この硝酸塩は体内の多くの機能を助けることが分かっています。たとえば、心血管系の健康に関連する内皮機能や血管拡張、ミトコンドリア機能、筋肉の収縮、認知機能などに作用することが挙げられます。
また、ビートルートに含有される食事性硝酸塩を摂取すると、運動中の筋力が大幅に増加するという研究報告がされています。

 

報告によると、健康な参加者10名に対し、15N同位体で標識された硝酸塩サプリメントを摂取し、脚の運動を自身の最大の力で行うよう試験しました。
摂取した硝酸塩の唾液、血液、筋肉、尿中の分布を追跡し、体内のどこで硝酸塩が活性されるかを検討しました。硝酸塩摂取、1 時間後、フィットネスマシンで 5 分間、最大強度で大腿四頭筋 (膝をまっすぐに伸ばしているときに活動する太ももの筋肉) を 60 回収縮させる試験を行いました。
その結果、筋肉中の硝酸塩レベルが大幅に増加することを分かりました。硝酸塩サプリメント摂取はプラセボの摂取と比較して、筋力が平均7%増加したことを示しました。
この研究では、おそらく一酸化窒素の供給源として作用するため、筋肉の硝酸塩レベルが運動パフォーマンスに重要な意味があるという直接的な証拠であることが示唆される研究データです。

 
一方で、硝酸塩の効果は、パフォーマンスの高い持久系アスリートほど低下するという報告もあり、多くの報告が待たれるところです。

 

その他の生理作用に関して

1)炎症の抑制
ビートルートの含有成分には、炎症性疾患を抑える効果があることも報告されています。 この含有成分は、フリーラジカルの中和、酸化ストレスの軽減、細胞の損傷抑制に効果があることが分かっています。さらに、肝臓では、ベタレインが解毒作用を助け、不要なものを排出するという体の処理能力を高めることも分かっています。
 

2)心肺持久力の向上
運動をすると、生体内では多くの酸素が必要になり、筋肉に多くの酸素供給するために深い呼吸をします。 ビートルートに豊富に含まれ硝酸塩(NO3-)から生成される 一酸化窒素(NO)は、酸素を効率的に使えるようにする働きがあり、筋肉に酸素を届け、パフォーマンスを向上させると考えられています。
 

3)筋肉疲労の軽減
NOは筋肉に運ばれる酸素や栄養素の量を適度に抑えるため、運動耐性が高まり、すぐには疲労しないことも報告されています。5日間続けてNO3を豊富に含むビートジュースを飲んだ対象者は、NO3を除いたビートジュースを飲んだ対象者より、筋肉の疲労が少なかったことが報告されています。
 

4)血圧の低下とLDL低下
硝酸塩を多く含む食材としては,ビートルートや緑色葉菜類(チンゲン菜,小松菜,パクチョイなど)があります。また、ヒト研究において硝酸塩(NO3-)を豊富に含む野菜類を摂取することで血圧を低下させることが明らかになっています。
これはNO3には血管を弛緩させる働きがあり、血管が緩むと血圧が下がり、筋肉など体のあちこちへ酸素や栄養素が届きやすくなると言われています。
 

さらに、この血管の拡張が、持久力とスタミナの向上に寄与し、心臓の負担軽減につながり、アスリートはより長い時間、運動に取り組める可能性が高まったことが推測できます。
 

高血圧症の治療をしていない対象者が14日間続けてビートジュースを飲むことで、血圧の低下に加え、悪玉コレステロールであるLDLが減少したことも確認できています。

 

硝酸塩の安全性

硝酸塩(NO3-)の適正な摂取量については現在も不明です。しかし、デンマークのコホート調査によると毎日少なくとも60 mg以上の植物由来の硝酸塩(NO3-)を摂取することで虚血性心疾患、心不全、虚血性脳卒中などの末梢動脈疾患による入院リスクをそれぞれ12%,15%,17%,26%低下させる可能性があることが報告されています。
 

一方で、乳幼児は成人よりも硝酸塩摂取によって重症メトヘモグロビン血症を発症しやすいことから硝酸塩を多く含む野菜果物ジュースを摂取する際は摂取量に注意するか、あるいは回避が望ましいと思われます。

 

ところで、硝酸塩(NO3-)のヒトに対する影響は調査されているものの適正な硝酸塩摂取量や長期的な効果や有害作用については明らかになっていない部分も多いことから今後の研究が必要です。さらに、野菜果物ジュースに用いられる野菜や果物の成分量は食材の旬産地(土壌)加工方法による影響を大きく受けるので正確な摂取量を設定するには困難を極めると思われます。

 

まとめ

硝酸塩(NO3-)の摂取に関して何かの疾患を抱えている方は、病態を悪化する可能性もあるので、医師や薬剤師、管理栄養士に相談する必要があります。
 

一方で、シュウ酸塩やシュウ酸は、多くの野菜や果物、豆類に自然に含まれています。シュウ酸塩の過剰摂取はカルシウム不足で、腎臓結石ができるリスクが高まることも懸念されます。

 

色々な生理作用がある硝酸塩ですが、過剰摂取によって悪影響も考えられるので、ご自分の状況をよく考慮して摂取すればよいかと思います。

 

参考文献
・Acta Physiologica https://www.eurekalert.org/news-releases/977238
・Larsen FJ, et. al., Dietary nitrate reduces maximal oxygen consumption while maintaining work performance in maximal exercise. Free Radic Biol Med. 2010, 48: 342-347.
・Hlinský T et. al., Effects of Dietary Nitrates on Time Trial Performance in Athletes with Different Training Status: Systematic Review. Nutrients. 2020, 12(9), 2734.
・Bondonno CP et., al., Dalgaard F, Blekkenhorst LC, Murray K, Lewis JR, Croft KD, Kyrø C, TorpPedersen C, Gislason G, Tjønneland A, Overvad K, Bondonno NP, Hodgson JM. Hodgson. Vegetable nitrate intake, blood pressure and incident cardiovascular disease: Danish Diet, Cancer, and Health Study. Eur J Epidemiol. 2021, 36(8): 813825.